リプロダクティブヘルス/ライツとは?

 リプロダクティブヘルス/ライツという言葉は、周知度が低く未だ充分に理解されていません。1994年、国連の人口開発会議がカイロで開催されたときから用いられていますが、わかりやすく訳すと「家族計画・母子保健・思春期保健を含む生涯を通じた性と生殖に関する健康」という意味になります。舌を噛みそうに長くて覚えにくいので、通常私達は「リプロ・ヘルス」と略しています。
性は生まれたときから決められており、選ぶことはできません。男性は妊娠させる性、女性は妊娠して産む性でありますが、従来日本では母子保健は重要視され発展してきましたが、性に関してはタブー視されてきました。そのために「性」についての知識はほとんど興味本位なマスコミや、友達から得ている状況で、成長発育にふさわしく、正しくは教えられていなかったのが実情です。
子供から老人に至るまで性的感情をもつことは当たり前のことなのです。私は長く思春期保健に関わってきましたが、10代の望まない妊娠ほど、心が痛む問題はありません。また、最近は性感染症が若い世代に増えています。日本を担う若者たちのリプロ・ヘルスに大人たちは目を向けて、もっと真剣に取り組まなければなりません。

 「生命の誕生」は男女共同参画のミクロで一大事業です。男女のコミュニケーションナシにはできないことです。行為以前に、心のコミュニケーションが大切であり、相手をいとおしいと思う気持ちがなければ、子供に対する愛情も湧かないでしょう。今や「性」は隠されたものであり、即、生殖である時代ではなくなり、一般的に楽しさを享楽することも性の側面と考えられるようになってきました。(これは、妊娠不可能な高齢になっても、性は否定されるべきではないからです)
 しかし、生殖、即ち、妊娠することは、男女の同等の責任であるべきで、その為に正しい性の知識が必要なのです。去る1月23日(河北新報)に、『中高生の7近くが『同年代の女子が見知らぬ人とセックスすること』を容認していることが、警察庁の青少年問題調査研究会の意識調査でわかった』という記事が載っていました。実際、臨床の場でも知らない男女が、メールで初めて会って、即、セックス、妊娠してしまったという症例は枚挙にいとまがありません。これも、男性は性行動に無責任であり(都合が悪ければ逃げられる)、女性は妊娠したら逃げられないことをわかっていないのです。妊娠して初めて、騙された、困ったということになるのです。リプロ・ヘルスは、妊娠から逃げられない女性の生涯健康を保持することが重要であるという世界的共通概念なのです。

 リプロ・ヘルスの世界的概念は現在病気であるかないかは別として、人々が安全で安心な性生活を営むことができ(性感染症の不安なしに)、生殖能力を持ち、子供を産むか産まないか,産むとすればいつ産むか、何人産むか、出産間隔などを自己決定できることです。それを経済的にも無理なく実行できるということが、本来の家族計画です。リプロ・ヘルスはそのために避妊などの必要な知識、情報の提供も含まれています。生殖作用(リプロダクション)即ち妊娠は、男性にも責任のあることですが、妊娠するのは女性であり、出産・授乳も女性特有の機能です。したがって、女性特有の臓器があるために男性とは異なる健康上の問題に直面することがあるのです。
 思春期には初経があり、その後は毎月の月経についてのトラブル、胎児を育てる子宮には、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮がんの発生、乳がんの問題などがおこってきます。また、男性と五分五分のセックスであっても、望まない妊娠で人工妊娠中絶にいたれば、身体も心も傷つきますし、それが将来更年期障害の誘因になることも稀ではありません。したがって、リプロ・ヘルスは、性の問題、思春期の問題、妊娠、出産、中絶、避妊、不妊、性感染症、更年期障害など、女性の生涯にわたる健康の問題ということができるのです。
 従来日本では、女性の健康は母子保健の面からのみ考え、女性自身の生涯の健康保持という配慮が欠けていました。家族計画も、強制や暴力を受けることなく男女が対等な関係で性生活を営むことを権利とは考えていませんでした。したがって、リプロ・ヘルスとライツは、女性の基本的な問題であるといわざるを得ません。
 今、我が国では予想を上回る少子化が大きな問題になっています。女性のライフスタイルは、その多様化により、社会進出は止められません。結婚してはじめて性交を公認された時代の性はイコール生殖で、妊娠しても子供を産んでも、育児も結婚という公認の枠の中で、孤独ではありませんでした。個人中心の現代社会では、妊娠・出産・育児を支援する環境整備が緊急に求められています。リプロ・ヘルスを正しく理解して、男女が対等な立場でコミュニケーションを取れるようになることが、女性問題のみならず、社会問題解決の活性化のキーになると考えています。(了)

                                        (長池 博子)


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