条例に盛り込むべきと考える内容について

(1)前文

○個人の尊厳・法の下の平等を規定する憲法が制定されてから半世紀以上が経過した。この間に,女子差別撤廃条約が批准され,世界女性会議が女性の人権擁護を主唱するなど,制度上の男女平等実現に向けた取り組みや社会的気運は変わりつつある。こうした中,我が国においても1999年6月に男女共同参画社会基本法が成立し,現状を改め,男女が共にいきいきと生活できる社会を実現することが,21世紀の我が国社会における最重要課題であると示されているところである。

○それにも関わらず,現実には家庭や地域社会,職場において,性別に起因する,特に女性であることによる差別的処遇が行われているほか,ドメスティック・バイオレンスやセクシュアル・ハラスメントなど人間としての誇りを踏みにじる深刻な人権侵害も依然として存在している。

○仙台市としても「女性行動計画(現:男女共同参画せんだいプラン)」の策定・推進など,男女平等の実現に向けた取り組みを早くから行なってきたほか,女性問題解決に向けた市民活動が活発に展開されてきた。しかし,性別に起因する差別的処遇や社会的格差は,依然存在している。例えば女性の労働力のM字型曲線の底が全国よりも低いという現状にあるほか,市民意識としても,さまざまな場面において男性優遇感が強く現れており,このことは,女性に対する社会的評価と処遇は男性と同等とはいえない状況にあるとの認識を裏付けているといえる。

○こうした地域の実状を踏まえ,また憲法や女子差別撤廃条約の理念ならびに世界女性会議の成果等に鑑み,誰しもが一人の人間として認められ,かつ,性別にかかわらず,こじんとして誇りを持って生きることができる平等で多様性が認められる「男女平等のまち」の実現にめざした取り組みを一層推進すべきであると考えた。そのためには,人権尊重の理念社会に深く根づかせ,男女平等の達成をめざすものとしての男女共同参画の推進に積極的に取り組むことが必要不可欠である。こうした新たな社会の実現に向け,市民・事業者・行政が連携して取り組んでいくという仙台市の姿勢を明らかにし,その方向性を示すために,この条例を制定するものである。

○このような社会の実現に向けた取り組みは,固定的性別役割分業観に縛られた男女のあり方や,職業生活を最優先した生活のあり方を見直し,誰しもが家庭生活と職業その他の社会的諸活動を両立することができる新しい生活価値を生み出すこととなり,ひいては性別のみならずあらゆる種類の社会的不平等の解消への糸口になるものと考える。

(2)目的

「男女平等のまち」の実現に向けた男女共同参画の推進(以下,「男女共同参画の推進」という。)に関し,その基本理念を定め,市,市民,事業者の責務を明らかにするとともに,市の基本的施策及び推進体制を定めることにより,総合な取組を行なうこと

(3)定義

〔ア〕積極的格差改善措置
○社会のあらゆる分野における活動に参加する機会についての男女間の格差を改善するため,必要な範囲内において,男女のいずれか一方に対し,当該機会を積極的に提供すること。

〔イ〕ドメスティック・バイオレンス
○現に配偶者関係にあるか否か,もしくは過去に配偶者関係にあったか否かに関わらず,親密な関係にある異性間において行われる身 体的・精神的苦痛を与える暴力その他の行為

〔ウ〕リプロダクティブ・ヘルス/ライツ
○女性の基本的人権の問題としての,性と生殖に関する生涯にわたる健康と権利

〔エ〕セクシュアル・ハラスメント
○相手の意に反する性的言動により,相手に不快感もしくは不利益を与え,又は就業その他の生活環境を破壊すること

〔オ〕事業者
○公的機関であるか私的機関であるかを問わず,また,その事業活動が営利を目的とするか否かを問わず,市内において事業活動を展開するもの

(4)基本理念

(1)すべての人が,性別と社会的立場等にかかわらず等しく人権が確保され,人間としての尊厳を傷つけられることがないこと
(2)すべての人が,直接的であるか間接的であるかを問わず,社会のあらゆる分野において,性別を理由とするいかなる差別的扱いも受けないこと
(3)男女が,固定的な性別役割分担意識に基づく制度や慣習による制約を受けることなく,個人としての尊厳が重んぜられ,自らの意思で自由に社会的諸活動を選択することができ,その持てる資質・能力を発揮する機会が均等に確保され,正等に評価・処遇されること
(4)男女が,性別にかかわらず,社会の対等な構成員として,市の政策又は民間の団体における方針の立案及び決定に参画する機会が等しく確保されること。
(5)男女が,性別にかかわらず,家事・育児,家族介護その他の家庭生活における活動と職業生活その他の社会生活における活動を両立することができること

(5)性別による人権侵害の禁止

(1)いかなる人も,あらゆる場において,それが直接的なものであれ間接的なものであれ,性別による人権侵害を行なってはならない。
(2)性的行為の強要,セクシュアル・ハラスメント及びドメスティック・バイオレンスなどの行為は,人権を著しく侵害し人間としての尊厳を蹂躪する行為であり,特に女性が重大な被害を被っているという現状に鑑み,いかなる人も,あらゆる場において,このような行為を行ってはならない。
(3)いかなる人も,公衆に表示する情報において,上の(5)−(1),(2)に規定する行為等を容認,または助長,奨励するような表現を行わないよう特段の配慮をしなければならない。

(6)市の責務

(1)基本理念にのっとり,男女共同参画社会の推進を市の主要な施策と位置づけ,その推進に関する施策(積極的格差改善措置を含む)を総合的に策定すること
(2)男女共同参画社会の推進に関する施策を計画的に実施すること,ならびに実施のために必要な財政上の措置その他の措置を講ずること
(3)基本理念にのっとり,率先して事業者としての責務(項目(8)−(1),(2)に定める責務)の遂行に努めること

(7)市民の責務

(1)基本理念にのっとり,男女平等に関する理解を深め,家庭・学校・職場・地域その他あらゆる分野において,積極的に男女共同参画社会の推進に努めること
(2)市が実施する男女共同参画社会の推進に関する施策に協力するよう努めること

(8)事業者の責務

(1)基本理念にのっとり,男女平等に関する理解を深め,その事業活動を展開する際に,基本理念にのっとり,積極的に男女共同参画の推進に努めること
(2)その事業に従事する男女が,事業活動のあらゆる分野に関与する機会を等しく確保され,正等に評価・処遇される体制,及び事業活動と家庭生活における活動を両立することができる体制の整備に努めること
(3)市が実施する男女共同参画の推進に関する施策に協力するよう努めること

(9)市の基本的施策

@政策の立案・決定過程における推進

(1)市の附属機関である審議会等の委員その他の構成員の選任にあたっては,男女の均等な構成に努めること
(2)職員の任用にあたっては,能力・適正の重視を前提に,性別に起因する固定観念にとらわれない業務分担の見直しや管理職の登用を推進すること

A計画の策定

(1)総合的かつ計画的な施策の展開を図るために,男女共同参画の推進に関する計画を定めること
(2)計画を定めるにあたっては,審議会の意見を聴いてこれを定めること
(3)計画を定めた場合には,遅滞なくこれを公表すること
(4)計画を変更する場合にも,審議会の意見を聴くとともに,それを決定した場合には速やかに公表すること

B年次報告

○毎年,男女共同参画の推進に関する施策の実施状況について報告書を作成し,これを公表すること

C市民及び事業者の理解を得るための措置

○広報その他の啓発活動ならびに研修機会の提供等を通じて,男女平等に関する市民及び事業者の理解を深めるため,適切な措置を講ずること

D教育・学習の推進

(1)学校教育その他あらゆる教育ならびに学習の機会において,男女平等に関する理解を深めるため必要な措置を講ずること
(2)学校教職員その他教育・学習に携わるあらゆる者に対し男女平等に関する研修機会を提供する等,必要な措置を講ずること

E雇用の分野における推進

(1)事業者に対し,雇用の分野における男女の均等な機会・処遇の確保を含む男女共同参画の推進が図られるよう,関係法令を含む情報の提供その他必要な措置を講ずること
(2)現状を勘案し,積極的格差改善措置として,女性の就業機会の拡大及び男女の均等な機会・待遇の確保を含む男女共同参画の推進に資する研修機会の提供その他必要な措置を講ずること
(3)必要と判断する場合には,国,県,その他の関係機関との連携の下に事業者に対して雇用の分野における男女の均等な機会・待遇の確保を含む男女共同参画の推進に関する情報を求め,又は適切な措置を講ずるよう助言等を行うことができる

F自営業の分野における推進

(1)自営業の分野において,女性が主体性を活かして能力を発揮し,男性と対等な立場にある者として,正当に評価されるよう,研修機会の提供その他必要な措置を講ずること
(2)自営業の分野において,女性が男性と対等な構成員として,その方針の立案及び決定等に参画する機会が確保されるよう必要な環境整備を促進すること

G家庭生活における活動と職業生活その他の社会生活における活動の両立支援

○子の養育,家族の看護ならびに介護等の家庭生活における活動と,就業,就学その他の社会生活における活動が男女共に両立できるよう,市民及び事業者に対して,情報の提供その他必要な措置を講ずること

H性別による人権侵害に対する自立支援

○性別による人権侵害(性別による差別的取扱い,セクシュアル・ハラスメント,ドメスティック・バイオレンスなど,項目(5)−(1), (2)に規定する行為)等により被害を受けた者に対し,関係機関との連携の下に,自立支援その他必要な措置を講ずること

Iリプロダクティブ・ヘルス/ライツへの支援

○リプロダクティブ・ヘルス/ライツの保障が,男女平等に不可欠な前提事項であるとの認識に基づき,研修,教育機会の提供,啓発その他必要な措置を講ずること

J調査及び研究

○男女共同参画社会の推進に関する施策や,社会における制度慣行がそれに及ぼす影響及び男女共同参画の推進を阻害する問題に関して,必要な調査・研究を行い,その成果を常に男女共同参画の推進に関する施策に反映させるよう努めること

K苦情相談体制の整備

(1)性別又は男女共同参画の推進を阻害する要因による人権侵害,ならびに男女共同参画の推進に関する施策及び男女共同参画の推進に影響を及ぼすと認められる施策に関して,市民又は事業者の苦情相談に応じるため,適切な苦情相談体制を整備すること
(2)苦情相談内容が,性別又は男女共同参画の推進を阻害する要因による人権侵害に関する場合には,関係機関との連携の下に,被害者等への支援その他必要な措置を講ずること
(3)苦情相談の内容が市の男女共同参画の推進に関する施策に関する場合には,必要に応じて審議会の意見を聴き,必要な措置を講ずること
(4)(1)による苦情相談の申出があった場合には,適切かつ迅速に対処すること

(10)審議会

(1)男女共同参画社会の推進に関する計画その他重要事項を審議するために,市の附属機関として審議会を置くこと
(2)審議会は男女共同参画の推進に関する市長の諮問に応じるほか,次の事項について調査審議し,市長に意見を述べ,必要があると判断する場合には市に説明を求めることができること
@市民及び事業者からの男女共同参画の推進に関する施策及び男女共同参画の推進に影響を及ぼすと認められる施策に関する苦情相談事項(苦情相談(3)に規定)
A男女共同参画の推進に関する施策の実施状況
Bその他男女共同参画の推進に関する重要事項
(3)審議会の委員構成は,一方の性に著しく偏ることのないよう配慮されなければならないこと

(11)庁内推進体制の整備

○男女共同参画社会の推進に関する施策を市の主要な施策として全庁的に展開するため,適切な庁内体制を整備すること

(12)拠点施設の整備

○男女共同参画の推進に関する施策を実施するとともに,市民,事業者との幅広い連携を通じた「男女平等のまち」の実現に向けて社会的気運づくりや調査研究,情報提供等を行なう拠点となる施設を整備すること

(13)関係機関,NPO等との連携

○男女共同参画の推進に関する施策を実施するにあたっては,国,県その他の関係機関,並びに民間の諸団体と連携してこれを行うこと

(2002年11月,男女共同参画推進に関する条例のあり方についてー提言ー,仙台市ジェンダーフリー推進協議会)より転載


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